クリエイター・イン・レジデンス

ピオ・ピコ・コリアタウン分館を訪れた際,ロサンゼルスのレストランにあったかつてのメニューが展示されていた。豆腐のレストランで使われていたひょうたんも展示されている。これは,「コリアンタウンを巡る食の旅」と題された企画であった。展示の説明によれば,図書館が所蔵するレストランのメニューをたどることで,地域の変化や社会の動向が見えてくるという。

展示では,メニューが地域の人口構成の影響を強く受けていることが示されていた。当初,移民が少なかった時代には,典型的な西洋料理を提供するレストランが中心であった。しかし,1965年の移民法成立後,韓国系移民が増加し,次第にコリアンタウンが形成されるにつれて,韓国料理が提供されるようになる。さらに時代が進み,ラテンアメリカからの移民が多く住むようになると,メキシコ料理などもメニューに含まれるようになっていった。こうした変化は,社会の動向とも無関係ではない。パンデミック期には,それまで営業していたレストランが廃業したことも述べられている。

展示は,単発のものではなく「クリエイター・イン・レジデンス」という取組の一環として開催されている1。これは,さまざまな分野のクリエイターがロサンゼルス公共図書館(LAPL)の資料やサービスを活用して,新しい作品を生み出すことを目的とした取組である。LAPLの図書館財団と提携して2022年から始まり,2年ごとに新たなクリエイターが選出されている。

今回の「コリアンタウンを巡る食の旅」は,地元を拠点とする食文化のジャーナリスト,ティエン・グエン氏による企画である2。グエン氏は,「クリエイター・イン・レジデンス」で,食とロサンゼルスの地域性,伝統,移民との関係をテーマに取り組んでいる。取組の中では,前回のオリンピック開催時のメニューについても触れられていた。当時のメニューを見ると価格が期間中高騰していないことが分かるという。これは主催者と周辺レストランが取り決めをしていたためである。また,世界中から集まる観客・関係者に対応するため,多様なメニューが用意されていたことなども読み取れるという。

今期の「クリエイター・イン・レジデンス」では,ファッションデザイナーのアシュリー・ウォーカー氏も選出されている3。ウォーカー氏は,図書館のアーカイブ資料を活用し,ロサンゼルス市の歴史を体現するファッションを制作するという取組を行っている。その成果は中央図書館に展示されていた。図書館が期間を定めてアーティストなどを選出し,活動を支援する取組は,英国のストーリーハウス/チェスター図書館で見た「アーティスト・イン・レジデンス」とも重なる点がある。

この取組で興味深い点はいくつかある。まず,レストランのメニューを図書館が資料として保存している点である。しかも,LAPLでは,こうしたメニューを17,000点も所蔵しているという。メニューはエフェメラのひとつであるが,こうした資料を長期的に保存している点は素晴らしい。また,図書館の中でも目立ちにくい資料に光を当てている点も重要である。エフェメラやアーカイブ資料は,往々にして活用が進みにくい。しかし,このような展示を通じて活用方法を提示することで,利用促進につなげることができる。

さらに,地域のクリエイターを支援している点も優れている。この取組に選出されると,図書館財団から20,000ドルが支払われる。日本円にして300万円以上に相当し,金額としてかなり大きい。最後に,このような取組は,地域を再発見する契機にもなる。「コリアンタウンを巡る食の旅」の展示を通じて,コリアンタウンの今昔を知ることができ,新たな世代が地域の歴史に触れるよいきっかけになるのではないだろうか。

  1. https://www.lapl.org/creators ↩︎
  2. https://www.lapl.org/creators-tien-nguyen ↩︎
  3. https://www.lapl.org/creators-ashley-walker ↩︎