Zip Booksプロジェクト

サンタ・フェ・スプリングス・シティー公共図書館を訪問した際,Zip Booksを実施していることを知った。アップランド公共図書館でも行われていた1。興味深いサービスであるため,ここで紹介しておきたい。

Zip Booksは,図書館に利用者が求める資料が所蔵されていない場合,利用者がAmazonを通じて資料を入手できる仕組みである2。これまでは物理的な図書やオーディオブックが対象であったが,2025年−2026年からは電子的な資料も利用できるようになった。ただし,電子書籍については,Palace Project上でのみ閲覧可能となっている。

カリフォルニア州立図書館の説明によれば,仕組みは以下のとおりである3。利用者は,地元の図書館に所蔵されていない資料について所定のフォームでリクエストを行う。図書館は一定の要件を満たしているかを確認し,要件に合致すればAmazonに注文する。資料はAmazonから利用者の自宅に直接配送され,利用者は読み終えた後,地元の図書館に返却する。返却された資料は,そのまま当該図書館のコレクションの一部となる。カリフォルニア州立図書館は,このプログラムを実施するための助成金を図書館に提供している。

州立図書館は,この仕組みの狙いとして,居住地にかかわらず図書館資料へのアクセスを確保すること,ILLでは時間がかかる資料提供を迅速に行うこと,地域社会を反映したコレクションを形成すること,コストや職員の作業負担を軽減すること,を挙げている。

「Zip」という名称の意味は明示されていないが,「素早い」という意味と,zip code,すなわち郵便番号=住所の意味があると考えられる。このサービスには,「図書館にない資料」を提供することと,「自宅まで届ける」ことの二つの要素が組み合わされている。図書館ではこれまでも,ILLを通じて,しばしば有料ではあるが,所蔵しない資料を提供してきた。また,障害などの理由により来館が困難な利用者に対して,自宅配送サービスを行うこともあった。しかし,これらのサービスには一定の要件があり,資料が届くまでに時間がかかる場合が多かった。Zip Booksプロジェクトは,図書館にない資料を迅速に利用者へ届けることで,新たな価値を生み出そうとしている仕組みだといえる。

ウェブページによれば,Zip Booksプロジェクトは2011年に実証実験が行われた。それによると,リクエスト処理に要する時間が3分の2に減り,利用者への配送時間も短縮されたという。2013年からはLSTA資金による本格運用が始まり,2021年−2022年以降は,年間100万ドル(約1.56億円)が継続的に支出されている。

参加対象は州内のすべての公共図書館である。ただし,申請額が予算額を上回る場合には,農村コミュニティにある図書館,貧困率の高い地域にある図書館,一人当たりの図書館予算が少ない図書館などが優先される。申請できる金額の上限は3.5万ドルである。統計データを見ると,2023年から2024年にかけて,Zip Bookで図書を受け取った利用者は39,939人,購入された点数は51,632点となっている。参加している図書館システムは93館である。そこから,1図書館システムあたり約555点利用されていることが分かる。かなり多い印象である。2025年−2026年には,州の補助金を受け取った図書館システムは全体の51%である。

実際の運用方法は図書館ごとに異なる。たとえば出版時期について,カーピンテリア・コミュニティ図書館では販売から3か月以上経過した図書を対象としている4。また,ネバダ・カウンティでは出版時期が2005年から2025年に設定している5。依頼できる冊数も図書館によってさまざまである。最大3冊まで,月に2冊まで,1回につき2冊までなどである。依頼できる図書の価格は,1冊あたり40ドルや50ドルといった価格制限を設けている図書館が多い6。受付方法はウェブページからの申請,あるいは直接図書館に依頼する方式が一般的である。購入図書は,新刊のみとする図書館がある一方で,マーケットプレイスの中古図書を購入する場合もある7

このサービスを蔵書構築の観点から考えると,利用者のニーズをダイレクトに反映させる点で,「選書ツアー」に通じるものがある。また,電子書籍分野で行われてきたPatron-Driven Acquisitionとも近い発想である8。実際にどの程度うまく機能しているのかは,必ずしも明確ではない。しかし,カリフォルニア州では2011年からパイロットプログラムとして開始され,これまで継続されてきた。その点から見れば,一定の成果があったと考えられる。ウェブページには利用者や参加図書館の声も紹介されており,来館が困難な利用者にとってのメリットが大きいこと,プログラムで購入された資料がよく利用されていること,農村部に住む利用者にとって大きな利点があること,などが示されている。

  1. https://www.uplandca.gov/zipbooks ↩︎
  2. https://www.library.ca.gov/services/to-libraries/zip-books/ ↩︎
  3. https://www.uplandca.gov/zipbooks ↩︎
  4. https://www.coastalview.com/news/new-zip-book-program-comes-to-library/article_3ac27ca2-27dd-4eec-8d82-40160c9dc7e7.html ↩︎
  5. https://www.nevadacountyca.gov/m/newsflash/home/detail/8530 ↩︎
  6. https://kerncountylibrary.org/zipbooks/ ↩︎
  7. https://kerncountylibrary.org/zipbooks/ ↩︎
  8. https://current.ndl.go.jp/e1310 ↩︎