今回のコロナウイルス対策として,政府は多額の経済対策を実施する予定である。こうした経済対策と図書館は無関係であろうか。経済対策による図書館への投資は,将来,大きな便益をもたらす可能性がある。
4月29日のIFLAブログは,世界中で計画されている政府による経済対策に,図書館の事業費を計上することの可能性を論じている。日本では国民に対する10万円の支給ばかりに注目が集まるが,どのようなことが考えられるか,記事を参考に考えたい。
提案1は,地域の書店から図書を購入するために図書館の資料費を増額することが提案されている。記事によれば,スペインのバルセロナではすでに実施されたという。この間,多くの書店が開店できない状態にいる。このことは,そうした書店を支援することに繋がる,とされている。
出版社や著者はどうであろうか。本が売れていなければ,そうした人々を支援することにもつながる。外出禁止により国・地域によっては,読書量が増加しているとの報道もある。オンライン書店や電子書籍を利用したものだろうか。いずれにしても,地域において活字文化を支える書店への支援は意義がある。
記事では,資料費が増えることによって,図書館が提供できる資料が多様化すること,電子資料に資料費を割り振らなければならない図書館にとって大いに役立つことも書かれている。
提案2は,学習と快適さに適した施設に改修することが提案されている。図書館を魅力的なスペースにすることを通じて,建設業を支援することにつながるという。図書館の改修は確かに図書館の魅力を高めることにつながるが,計画から実施まで時間がかかることを考えると即時的な実施は難しいように感じる。
提案3は,社会的包摂の観点から,図書館職員のスキルを高めることが提案されている。パンデミックの結果,失業率が上昇し,多くの人が新しい仕事を探したり,新しいスキルを身につけたりする必要が生じる。このことを支援するためには,図書館は新しいスキルを持つ人を採用するか,職員にスキルを身につけてもらう必要がある。そうしたニーズに対応するため,図書館職員のスキル向上が必要だという。
このことは,非常に重要だ。図書館の現場の職員は,環境の変化に応じて,常に学び続ける必要がある。現在であれば,そのための時間も十分にある。良質な教育プログラムが十分提供されれば,効果は大きい。そうしたプログラムは決して多くの予算を必要としないであろう。小さな投資で大きな見返りを期待できる。
提案4は,デジタル・インクルージョン(digital inclusion)の取り組みが提案されている。デジタル・インクルージョンは,記事では社会的にデジタル機器,ネットワークから排除されている人たちへの支援,という意味で説明されている。かつて,デジタル・デバイドが課題とされたが,それが格差に焦点を当てていたのに対して,セーフティーネットの部分に焦点を当てているようにも思う。図書館自身がWiFiを提供する,ルータを提供する,技術獲得を支援するといったことを含む。
アメリカでは,CARES法によりIMLS( Institute of Museum and Library Services)に,5,000万ドル(約53億円)を措置した。これは,主に図書館における上記のデジタル・インクルージョンのために用いられるものであり,すでに予算が降りてきている図書館もあるようである。
日本ではもWiFiが整備されてきたが,そうした整備はあまり話題にならない。図書館の中だけで提供されてきたためであろうか。あるいはすでに多くのWiFiスポットが整備されているためであろうか。しかし,WiFiに限らず,デジタル・インクルージョンの視点は,日本でも有効である。
提案5は,地域のクリエーターを支援する文化的事業の実施である。現在,日本でも演劇を始め,多くの興行が休止している。図書館がそうしたクリエーターの活躍の場を提供することは大いに意義がある。オーストラリアのALIAでは,著者を招いてのオンラインイベントのサイトを作り,早い時期から支援を行ってきた。
図書館にできることは多い。日本でもこうした取り組みを期待した。しかし,こうした取り組みを実現するには,当局がすばやく対応できること,実施過程を支える図書館関係者(特に図書館協会)と連携が取れること,アイデアを生み出す下地があること,など,いくつか条件がありそうである。日頃の活動がまずは大事,ということかもしれない。