に投稿

高齢者との会話サービス

コロラド州アダムス郡にある図書館が,Anything Connect Lineという電話によるサービスをしている(図書館ウェブサイト)。毎週水曜日から土曜日の10時から14時まで,職員が電話を受けつけている。市民は自由に電話をかけて,職員と本,音楽,映画などの話を楽しむことができるという。

図書館の職員が,電話の前で市民の電話を待ち,ただ会話を交わすというサービスは,一見風変わりに思える。しかし,図書館の職員と本の話しをする中から,新たな発見があるかもしれない。高齢者の中には,図書館が力を入れている電子書籍などによるオンラインサービスを受けることができない人もいるであろうし,そうしたサービスを好まない人もいるであろう。また,日頃から図書館の職員と会話を楽しんできた利用者であれば,そうした職員と話しをすることを楽しみとするのは当然かもしれない。しかし,このサービスは「図書館のサービス」を超えて,より広い文脈に位置づけられるかもしれない。

2020年5月21日のVOA LEARNING ENGLISHの記事でも似たようなサービスの記事があった(Free Calls Offered to Older Americans Living Alone)。こちらは,図書館ではなく市や民間団体などが,市内の高齢者に電話をかけるというものである。高齢者はコロナウイルス感染時の重症化リスクが高いため,地域によっては,依然,外出しないことが推奨されている。記事によれば見ず知らずの人からであっても,かかってきた電話で高齢者は会話を楽しんだり,生活上の支援の情報を得ることができるという。さらには,人とのつながりを感じることができる。

日本でも高齢者の外出自粛が長期間におよぶ中で,社会問題になりつつある。2020年5月23日の朝日新聞(朝刊32面)は「外出自粛 高齢者の健康問題は」と題して,会話減少がストレスや不安の原因になることが紹介されている。記事では会話を増やす方策として,「リモート食卓」が紹介されている。これは,離れて暮らす家族がオンライン会議アプリを使って一緒に食事をするというものである。

このように見てくると,アダムス郡の図書館サービスは,単なる風変わりなサービスではなく,図書館サービスの枠組みを超えた意義あるサービスなのかもしれない。

に投稿

図書館スタッフの解雇

2020年5月21日のデジタル版Library Journalにアメリカの図書館におけるスタッフ解雇の記事が載っている(「パンデミックによる緊縮財政で図書館の一時帰休,解雇が増加」)。コロナウイルス感染拡大が長期化する中で,図書館スタッフの解雇が進んでいるという。解雇の状況はTracking Library Layoffsにリスト化されている。Google Docで広く共有されている情報であり,そこから,図書館名,館種,解雇の状況,関連報道などが分かる。

解雇の人数は明確になっていないものも多いが,パートタイムや単純業務に従事するスタッフが多い印象である。リモートワークに移行できない職員ということだろう。しかしフルタイムのスタッフも一部,解雇されている。中にはすべての職員を解雇した図書館(Moline Public Library)もある。再開するときどうするのだろう。

記事では,今回の図書館の解雇には,レイオフ,つまり通常の意味の解雇と,身分を保証したまま給与の支払いをしない一時帰休(furlough)があるという。確かに上記のリストを見ると,これらが混在している。こうした解雇の判断は,自治体当局者,図書館長,図書館委員会(Library Board)等が行っているようである(日本の図書館協議会との権限の違いに注意!)。解雇の背景には,今後の固定資産税(property tax)減少による図書館予算減少の見通しがあるとされている。

さて,日本では,少なくとも現在まで,図書館員の解雇はほとんど問題となっていない。なぜか。アメリカでは,「職」に対して人が割り付けられているといわれる。近年,日本ではこうした雇用形態をジョブ型雇用と呼んでいる。そのことは,専門職制度にとっては有利に働いてきたと思う。職が先にあることで,専門職の外部労働市場が成立し,キャリア形成が可能になる。しかし,今回のような事態に直面すると雇用は保証されないことになる。

日本の組織は多くが内部労働市場型といわれ,一括採用された職員が組織の中で職を割り振られる。図書館の多くもその例外ではない。仕事がなくなれば,解雇されるのではなく,仕事のあるところに回される。そのことは,組織の中に専門職を作ることを困難にしてきたとも言われる。

しかし,日本の図書館では,正規職員以外の職員が多様な形で働いている。パートタイム,会計年度任用職員,委託職員,指定管理者の職員などなど。今後,図書館が再開される中で,業務が縮小され,また変化していくかもしれない。そのとき,彼らの職や仕事はどのようになるのであろうか。

に投稿

図書の隔離期間

日本図書館協会は2020年5月14日「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を示した。この中で,返却された資料の貸出しをどうするかに関し以下の説明がある。

資料へのウィルス付着に関係する対策については、現時点で、オーストリア図書館協会等をはじめとする海外の関係団体が公表している情報において、返却後の資料を一定期間保管・隔離したり、返却そのものを延期したりすることを推奨する例が見られるため、これらを参考にすることが考えられる。

「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」 p.4

このうち返却資料の保管・隔離について,IFLAの“COVID-19 and the Global Library Field”というウェブページに関連情報が掲載されているので,以下,紹介したい。これらは,各国の図書館協会から示されている場合もあれば,図書館を所管するところから示されている場合もある。以下の表は基本的にIFLAの情報をもとにしており,それ以上の一次情報は当たっていない。しかしながら,明確に述べられていないところ(イタリア及びスペイン)は一次情報を確認した。期間の単位は「日」に直した。

国名10万人当たり感染者数図書の隔離期間
オーストラリア2761日間
チェコ7852日間
アイルランド4,8593日間
スイス3,5363日間
オランダ2,5613日間
ベルギー4,7473日間
フランス2,751ビニールコーティングは10日間,紙は3日間
イタリア3,70210日間
スペイン(アンダルシア地方)5,86814日間

IFLAで紹介されている以外に,ニュージーランドは3日間(こちら)である。

100万人当たりの感染者数を調べたのは,感染が広がった国は長くなるのではという単なる興味である。こちらのデータはWorldometerで調べた(5月15日時点)。結果,両極はそうした傾向が見られるが,それ以外はそれほどはっきりしない。ちなみにニュージーランドは311人,日本は245人である。

それぞれ根拠はあるようだが,表から3日(72時間)が多いことが分かる。上の表にないアメリカであるが,OCLC,IMLS,Battelle(非営利の団体)がREALM(Reopening Archives, Libraries, and Museums)というプロジェクトを立ち上げた。図書館,アーカイブズ,博物館を対象に,科学的観点からCOVID-19の問題に取り組むものだが,ウイルスの残存期間も検討するようである。こちらも注目されるが,結果が出るまでには時間がかかるようである。

に投稿

電子書籍利用急増のインパクト

海外で,COVID-19による図書館閉館により,電子書籍の貸出しが急増していると報道されている。

例えば,4月22日,BBCは,英国の公共図書館における急増を伝えている。記事ではいくつかの増加の数値が出ているが,最大で2倍である。5月8日のBurnabynowの記事では,Burnaby公共図書館で450%増だという。5月13日のLadysmith Chronicleによると,Vancouver Island librariesでは50%増だという。

これらはGoogle Newsで検索した記事のいくつかの例であるが,図書館が閉館し,物理的な図書を借りることができない中,電子書籍利用が増加するのは容易に想像できる。その程度は,図書館がそろえるコレクションや利用可能性(アベイラビリティレート)などによりばらつきがあるのも当然であろう。

では,これらの電子書籍貸出しは貸出し全体の中で,どの程度を占めるのだろうか。ここではアメリカの事例を見てみたい。少し古いが,米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)の統計書(Public Libraries in the United States FISCAL YEAR 2016)を参考にする。2016年(FY)に,アメリカの公共図書館では,22億3千万点の貸出しをしている。国民一人あたりおおよそ7点弱である。

22億3千万点のうち,電子書籍の貸出点数は3億9千万点である。近年の方が電子書籍の貸出しは増えているかもしれないが,ここでは,この数値で話しを進めると,電子書籍の貸出しは全体の17.5%を占める。

仮に,COVID-19のもと,この数値が1.5倍になったとすると,電子書籍の貸出点数は,5億9千万点ほどになり,先程の貸出全体の22億3千万件を一定とした場合,26.2%に相当する。数値を2倍にすると7億8千万点で35%を占める。

この数値をどう評価するかである。特に,こうした新しい利用形態が「ニューノーマル」となったとき,物理的な図書の貸出しはどう位置づけられるのだろうか。

貸出数はかなり多い,と評価できるかもしれない。特に2倍と推定すると,そうである。貸出全体の1/3以上であり,4割も間近だ。利用可能な資料も実はかなり増えている。先ほどのIMLS統計によると,一人当たりの資料点数は図書が2.36点であるのに対して,電子書籍は1.29点まで増加している。ここから,電子書籍だけでも,一定の貸出しをまかなえる,という評価につながるかもしれない。

一方,それほどでもない,とも評価できるかもしれない。特に,1.5倍と推測した場合,そうである。まだ,1/4である。現在のような特異な状況下においても,この程度しか増加しないのであれば,物理的な図書へのニーズは依然高い,という評価につながるかもしれない。

「コロナ禍」以前の日常は戻らず,ニューノーマル,新しい生活様式が定着するともいわれている。図書館の利用方法も変わっていくのであろうか。

に投稿

ALAのアドボカシー

5月11日,アメリカ図書館協会(ALA)を含む多くの団体・企業等がIMLS(Institute of Museum and Library Services)を通じた図書館への20億ドル緊急援助を求める書簡を,上下両院に送った(記事)。図書館界はすでにCARES法により5,000万ドルの補助を得ているが,20億ドルはそれをはるかに上回る金額である。

その書簡(下院はこちら)に議員とともに名を連ねているのが,ALA以外に自治体,首長,教員等の全米の連合団体であり,さらにはBaker & TaylorやOverDrive等の民間企業である。その数,35団体にのぼる。仮に,日本図書館協会(JLA)が図書館への緊急援助を間もなく編成されるであろう補正予算で求めたとして,これほどの団体が名前を連ねるだろうか。

書簡では,援助を求める理由として,COVID-19により図書館の歳入が減少し,スタッフの解雇が生じていることを挙げている。そして,図書館サービス継続のために,財政的安定が不可欠と述べている。

具体的な数字も挙げられている。図書館は37万人を雇用し,年間40億ドル以上の資料購入費や10億ドル以上の施設整備費を支出していること,92%の予算が自治体から来ており,それがCOVID-19の影響で激減していること,アメリカ国民は年間13億回以上,来館していること,などである。

下院はAndy Levin氏, Don Young氏, Raúl M. Grijalva氏等が,上院はJack Reed氏, Susan Collins氏等の議員が中心となり,それぞれ101名,46名の議員が署名している。署名した議員は超党派であり,中には,史上最年少議員として話題になったAlexandria Ocasio-Cortez氏などの名前も見られる。

ALAはワシントンに公共政策・アドボカシー・オフィスを設置している。ここを通して議会に積極的な働きかけをしている。この書簡の取りまとめでも中心的役割を果たしたと推測される。記事によれば,ALAはさらに,図書館をCARES法に含まれる教育安定化基金の対象施設に入れるよう教育省に働きかけたという。

この事例で興味深いのは,多くの議員や有力団体がこうした趣旨に賛同していること,さらにこうした連携が事態の推移に合わせて迅速に行われていることである。日頃から連携のあることが推測される。さらに,ALAがこうした活動を積極的に情報発信している点である。情報発信によって,社会においてALAの存在感を高めることにつながるし,図書館界においてもALAへの求心力を高めることができるのではないだろうか。

に投稿

NZの警戒レベルと図書館

ニュージーランドでは,2020年4月28日にCOVID-19の警戒レベルが,レベル4からレベル3に変更された。さらに,5月11日には警戒レベルを新たに見直す予定である。ニュージーランドの図書館協会,LIANZAのCOVID-19のウェブページには,警戒レベルがレベル3であるため,まだ,図書館は閉めたままであると書かれている。ここでは,それぞれのレベルで,図書館がどのように設定されているかを見てみたい。

図書館の話の前に,ニュージーランドの仕組みを確認しておく。ニュージーランドでは「COVID-19警戒システム」という仕組みがあり,警戒レベルが4段階,設定されている。それぞれにおいて,旅行,教育,人の移動などで可能なこと,禁止されていることが明示されている(ウェブページはこちら)。この警戒レベルは,科学的知見と,ニュージーランドや他国の対策の状況によって変更されるようである。つぎに,警戒レベルと図書館の対応について見ていく。

警戒レベル4:ロックダウン(rockdown)では,閉館(対面でのサービス禁止)となっている。図書館は「公共の場所と集会」という項目にあり,同じ項目には,バー,レストラン,カフェ,ジム,映画館,プール,美術館,運動場などがある。

次に,現在(2020年5月8日)の警戒レベル3:制限(restrict)ではウェブページ上の記載はないが,”New Zealand COVID-19 Alert Levels Summary“という早見表によると,上記と同様,閉館となっている。

警戒レベル2:縮小(reduce)では,早見表によると再開とされているが,一定の制限のもとである。ウェブページでは,利用者が1メートル以上の間隔を保つこと,そのために利用者数の制限をしなければならない場合のあること等が書かれている。

では,警戒レベル2になれば,すぐに開館するか,というとそういうわけではなさそうである。クライストチャーチの図書館のウェブページによると,レベル2になって以降,図書館が安全であることを確認できたのち,開館するとされている。その場合も,最も大きなTūranga(図書館名)から開館し,次第に規模の小さい図書館が続くとされている。ちなみに,Tūrangaは,クライストチャーチの地震後,新たに開館した中央図書館であり,世界的によく知られている。

警戒レベル1は記載がない。

ニュージーランドは上記のように対処方針が明確である。また,見直し時期が明示されており予測可能性が高い。こうしたニュージーランド政府の対応は,早期の封じ込めに成功したとして欧米で評価されている。

国の大きさが違うため,日本がニュージーランドのように集権的に対処するのは難しいであろうし,マイナス面も考えられる。都道府県ごとに判断するのは,地域の実情を踏まえての対応という点で優れている。しかし,都道府県ごとに「協力要請」の内容が異なること,その対象事業も異なること,など分かりにくさもある。どのような対処がよかったのかについては,国,都道府県,基礎自治体の各レベルにおいて,今後,検証が必要であろう。

に投稿

新型コロナウイルス基本的対処方針の意味

本日,5月4日,新型コロナウイルス感染症対策本部から「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下,対処方針)が示された。この文書は修正版であり,もとは2020年3月28日に出されたものである。この文書中に「図書館」という語が出てくるので,見てみたい。

対処方針は,31ページにおよぶ。対策本部開催直後にこうした文章をとりまとめることができることから分かるのは,日本の官僚制度の優秀さと,方針(少なくとも大筋)は以前から決まっていたということだ。この文書の構造は以下のようになっている。

前文(経緯をまとめたもの)
一 新型コロナウイルス感染症発生の状況に関する事実
二 新型コロナウイルス感染症の対処に関する全般的な方針
三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項

この中で,もっともボリュームがあるのが「三」であり,「図書館」もそこに出てくる。「三」は実施に関わる重要事項の書かれているところである。ここの構造は以下のようになっている。

(1)情報提供・共有
(2)サーベイランス・情報収集
(3)まん延防止
(4)医療等
(5)経済・雇用対策
(6)その他重要な留意事項

図書館が出てくるのは,このうちの「(3)まん延防止」である。(3)はさらに以下のような構造になっている。

1)外出の自粛(後述する職場への出勤を除く)
2)催物(イベント等)の開催制限
3)施設の使用制限等(前述した催物(イベント等)の開催制限、後述する学校等を除く)
4)職場への出勤等
5)学校等の取扱い
6)水際対策
7)クラスター対策の強化

図書館が出てくるのは「3)施設の使用制限等」である。ここは,主に都道府県知事によって休業要請がなされた施設をまとめたところである。「3)」はさらに,特定警戒都道府県,それ以外の都道府県,事業者及び関係団体,に分かれている。そして,図書館が(今度こそ)出てくるのが,その最初の「特定警戒都道府県」である。「特定警戒都道府県」であるから,東京都を含む13都道府県に向けて書かれたところである。文章を引用すると,以下のとおりである。少し長いが段落全体を引用する。

なお、施設の使用制限の要請等を検討するにあたては、これまでの対策に係る施設の種別ごとの効果やリスクの態様、対策が長く続くことによる社会経済や住民の生活・健康等への影響について留意し、地域におけるまん延状況等に応じて、各都道府県知事が適切に判断するものとする。例えば、博物館、美術館、図書館などについては、住民の健康的な生活を維持するため、感染リスクも踏まえた上で、人が密集しないことなど感染防止策を講じることを前提に開放することなどが考えられる。また、屋外公園を閉鎖している場合にも、同様に対応していくことが考えられる。

「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」p. 15

現場にリスク評価をする時間や専門知識があるのか分からないが,とりあえず,都道府県知事が要請に関し判断する,とされている。そして,例示的に博物館,美術館,図書館は一定の条件付きで「開放することなどが考えられる」とされている。これら3施設は,いうまでもなく新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令第11条1項9号の施設である。あえて開放する施設に挙げていることから感じられるのは「図書館は開放してもよいのでは?」というニュアンスである。その際の条件は,「人が密集しないことなど感染防止策を講じること」である。

なぜ,図書館が挙げられたのか。それはよく分からない。図書館は次に挙げられた「屋外公園」同様,安全と考えられたのかもしれない。この判断は奇しくも,ジョン・ホプキンス大学と同様の評価である(記事参照)。

さて,「特定警戒都道府県」の箇所で図書館が挙げられたことから,いわんや特定警戒都道府県以外をや,である。今後,多くの都道府県で再開に向けた取り組みが進められる可能性がある。さて,見逃しがちなこととして,そのあとの「事業者及び関係団体」がある。ここには以下のように書かれている。

③ 事業者及び関係団体は,今後の持続的な対策を見据え,5月4日専門家会議の提言を参考に、業種や施設の種別ごとにガイドラインを作成するなど、自主的な感染防止のための取組を進めることとし、政府は、専門家の知見を踏まえ、関係団体等に必要な情報提供や助言を行うこととする。

「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」p. 16

この役割は,図書館に関わる協会や学会などに期待されていることかもしれない。

に投稿

政策パッケージ

今回のコロナウイルス対策として,政府は多額の経済対策を実施する予定である。こうした経済対策と図書館は無関係であろうか。経済対策による図書館への投資は,将来,大きな便益をもたらす可能性がある。

4月29日のIFLAブログは,世界中で計画されている政府による経済対策に,図書館の事業費を計上することの可能性を論じている。日本では国民に対する10万円の支給ばかりに注目が集まるが,どのようなことが考えられるか,記事を参考に考えたい。

提案1は,地域の書店から図書を購入するために図書館の資料費を増額することが提案されている。記事によれば,スペインのバルセロナではすでに実施されたという。この間,多くの書店が開店できない状態にいる。このことは,そうした書店を支援することに繋がる,とされている。

出版社や著者はどうであろうか。本が売れていなければ,そうした人々を支援することにもつながる。外出禁止により国・地域によっては,読書量が増加しているとの報道もある。オンライン書店や電子書籍を利用したものだろうか。いずれにしても,地域において活字文化を支える書店への支援は意義がある。

記事では,資料費が増えることによって,図書館が提供できる資料が多様化すること,電子資料に資料費を割り振らなければならない図書館にとって大いに役立つことも書かれている。

提案2は,学習と快適さに適した施設に改修することが提案されている。図書館を魅力的なスペースにすることを通じて,建設業を支援することにつながるという。図書館の改修は確かに図書館の魅力を高めることにつながるが,計画から実施まで時間がかかることを考えると即時的な実施は難しいように感じる。

提案3は,社会的包摂の観点から,図書館職員のスキルを高めることが提案されている。パンデミックの結果,失業率が上昇し,多くの人が新しい仕事を探したり,新しいスキルを身につけたりする必要が生じる。このことを支援するためには,図書館は新しいスキルを持つ人を採用するか,職員にスキルを身につけてもらう必要がある。そうしたニーズに対応するため,図書館職員のスキル向上が必要だという。

このことは,非常に重要だ。図書館の現場の職員は,環境の変化に応じて,常に学び続ける必要がある。現在であれば,そのための時間も十分にある。良質な教育プログラムが十分提供されれば,効果は大きい。そうしたプログラムは決して多くの予算を必要としないであろう。小さな投資で大きな見返りを期待できる。

提案4は,デジタル・インクルージョン(digital inclusion)の取り組みが提案されている。デジタル・インクルージョンは,記事では社会的にデジタル機器,ネットワークから排除されている人たちへの支援,という意味で説明されている。かつて,デジタル・デバイドが課題とされたが,それが格差に焦点を当てていたのに対して,セーフティーネットの部分に焦点を当てているようにも思う。図書館自身がWiFiを提供する,ルータを提供する,技術獲得を支援するといったことを含む。

アメリカでは,CARES法によりIMLS( Institute of Museum and Library Services)に,5,000万ドル(約53億円)を措置した。これは,主に図書館における上記のデジタル・インクルージョンのために用いられるものであり,すでに予算が降りてきている図書館もあるようである。

日本ではもWiFiが整備されてきたが,そうした整備はあまり話題にならない。図書館の中だけで提供されてきたためであろうか。あるいはすでに多くのWiFiスポットが整備されているためであろうか。しかし,WiFiに限らず,デジタル・インクルージョンの視点は,日本でも有効である。

提案5は,地域のクリエーターを支援する文化的事業の実施である。現在,日本でも演劇を始め,多くの興行が休止している。図書館がそうしたクリエーターの活躍の場を提供することは大いに意義がある。オーストラリアのALIAでは,著者を招いてのオンラインイベントのサイトを作り,早い時期から支援を行ってきた。

図書館にできることは多い。日本でもこうした取り組みを期待した。しかし,こうした取り組みを実現するには,当局がすばやく対応できること,実施過程を支える図書館関係者(特に図書館協会)と連携が取れること,アイデアを生み出す下地があること,など,いくつか条件がありそうである。日頃の活動がまずは大事,ということかもしれない。

に投稿

COVID-19とWebnar(3)

実際のウェビナーの様子はどうなっているのだろうか。ここでは,4月16日の”Public Libraries Respond to COVID-19: Innovative Solutions in Times of Crisis“の回を見てみる。

スピーカーは以下の4名である。実施の形態は,ウェブ会議システムを使って,それぞれが自宅などから発言する方式である。やりとりは録画され,動画配信サービスVimeoを使って公開されている。また,視聴者のチャットのログは動画と一緒に公開されている。

  • Pam Sandlian(Smith, Director, Anythink Libraries, Adams County, CO)
  • Marcellus Turner(Executive Director and Chief Librarian, The Seattle (WA) Public Library)
  • Kelvin Watson(Director of Libraries, Broward County (FL) Libraries Division)
  • Mary Hirsh(PLA Deputy Director)

まず,PLAの継続教育のマネージャであるAngela Maycock氏がスピーカーを紹介し,そのあと,Mary Hirsh氏に引き継いでいる。

Hirsh氏は,まずPLAが実施した全米の公共図書館に対する調査結果を5分間ほど解説したあとで,最近の図書館の革新的試みを尋ねている。3Dプリンタ,オンラインストーリータイム,ラップトップの貸出,フードバンク,ヴァーチャルコンサートなどが挙げられている。次に,Hirsh氏は,そうしたアイデアをどこから得ているのかを尋ねているが,PLAやALAといった図書館関連団体,ソーシャルメディア,図書館管理職とのやりとりが挙げられている。他に,現在のような環境下,スタッフをどのようにサポートするのかについても議論されている。

こうした議論の最中,参加者はウェブ会議システムのチャット機能を使いコメントしている。コーディネータのHirsh氏は,その中から社会的公正にどう貢献するかという質問を取り上げ,スピーカーに尋ねている。

以上が,この回の内容で,全体で60分弱であった。全体にリラックスした雰囲気で運営されていることが印象的だった。聞き手も自宅から参加できるので手軽に参加できると思う。日本でも,この間,ウェブ会議システムが多くの職場で広がっている。少なくとも私の職場では頻繁に使用している。サポート体制さえ整えば,図書館の研修や,情報交換のツールとして広がっていくのではないだろうか。

に投稿 1件のコメント

図書館の危険性

ジョンズ・ホプキンス大学が,”Public Health Principles for a Phased Reopening During COVID-19: Guidance for Governors“を4月17日に刊行している。これは,今後感染リスクが低下する中で,段階的再開に向けた取り組みの手順を,主に州レベルの「意思決定者」に向けてまとめたものである。

ジョンズ・ホプキンス大学といえば,先日,NHKのニュースで「米ジョンズ・ホプキンス大 コロナ特設サイト 信頼性高いと注目」(2020年4月26日)という報道があった。当大学のウェブサイトは,最新の,信頼される情報がまとめられ,世界的に注目されているという。

この報告書では,図書館を「コミュニティの人々が集まる場所」の施設の一つとして,危険性を評価している。そうした施設には,礼拝所,図書館,コミュニティーセンターが掲げられている。

図書館の危険性は,接触の強度が「低」,接触の回数が「低」と評価され,緩和策による効果は「中」とされている。最初の2つがともに「低」とされた施設は,報告書の中で「公園・散歩道・犬の公園(dog park)」だけである。日本の休業要請で同じカテゴリに入っている美術館は「中」「高」である。要するに,危険性の少ない施設と評価されている。

さて,この報告書に対して,PLA(Public Library Association)が抗議文を出した。公共図書館には非常に多くの利用者が来館していること,危険性は提供されるプログラムにも依存すること,などからコミュニティーセンターと同等の危険性にすることを求めている。図書館の現場から見れば,読み聞かせを始め各種プログラムを実施しており,そのことを考慮すれば,公園と同程度とのリスク評価は受け入れられないということであろう。

なお,PLAからの書簡からは,やり取りは以前からあるかもしれない。というのもPLAの抗議文には「新たな脚注」への言及があるためである。報告書では「図書館」の項目に脚注がつけられており,社会的活動,コミュニティの集まりがある場合は,コミュニティセンターに含むべきことが書かれている。

いずれにしても,図書館の活動を元に戻すには段階的にならざるを得ないこと,しかし,一定の配慮(社会的距離を取ることなど)をとるのであれば,少なくともジョン・ホプキンス大学の見解では,それほどリスクは高くないとなりそうである。日本では都道府県の「休業要請」により,「美術館」「博物館」と同様,「集会展示施設」の一つに分類されている。今後,施設のタイプ,活動の種類,再開に向けた段階的取り組みなどの全体を評価しながら,再開の時期を検討していく必要がある。